世界は決して優しくはない。
それは誰もが知ること。
■ せかいでいちばん甘いキスを ■
はーぁ、とゆっくりと肺の中の二酸化炭素を吐き出すように息を吐き出した。体の中から出て行った二酸化炭素は、外気に冷やされ白い跡を残して消えてゆく。そんな寒い夜空の下に、2つの小さな人影があった。
吐き出す息が白くなるのを楽しんでいた子供が、真上まできた月を見て目を細める。時折ふきつける冷たい風が、橙髪を遊ぶ。段々寒さを増してきた風から逃れるようにフードを被れば、少しだけ寒さが遠のいた。
「遅いさ・・・」
寒さを無理やり忘れるようにつぶやけば、まだ日の明るいころに自分達をここにおいて行った、大人の後姿を思い出した。『ちょっとここで待っててね』そういって去っていった大人は、日が落ち月が真上に来ようとも戻りはしなかった。いつも一緒に居た白銀の色を持つ人も。
「…けど、待つ」
橙髪の少年の隣に座る、漆黒髪の少年が小さく呟いた。橙髪の少年は賛同するように、首を縦に振った。
寒さをしのぐように身を寄せあえども、寒さに勝てるはずもない。小さく続いていた言葉が少なくなり、ほぼ無言になるころにはお互いの体温さえ感じ辛くなっていた。
お互い何も言いはしないが、このままここに居続ければどうなるのか理解できないほど子供ではなかった。だが、どうしても信じられない。その強い思いが、少年達をここにとどまらせている。
少年達の意識があやふやになったころ、耳が小さな音をひろう。
地面を蹴る小さな音は段々と大きくなり、やがて少年達の前で止まった。
「間に合った…っ」
瞳を開く前に聞こえてきた声音。稼動をやめようとしていた脳がその音が何なのか理解する前に、暖かな体温に包まれた。そっと目蓋を上げると、視界に飛び込んできたのは、月光に輝く白銀の髪。自分達を優しく抱きしめた人物が誰なのか本能的に感じ取った瞬間、冷たい頬に暖かな涙が伝った。
「−っ」
子供達はすがるように、自分達よりも大きな背に片腕をまわした。もう片方の手は、互いの手を握った。
組織間の闘争に巻き込まれ生を受けてしまった子供であった少年達。親は敵対する者と恋仲に落ちたという罪で、処刑されている。いわばお荷物であった少年達は、闘争の激化する街から一時的に拠点を移すと同時に切り捨てられ、ここで野犬の餌となるはずだった。この人が来るまでは。
風が吹くたびに、鉄ような独特の匂いがしたが、子供達には関係のないことだった。
たとえこの匂いが自分達を見捨てた組織の人間のものであったとしても。
一番共に居てほしい人が、全てを捨てて、迎えに来てくれたことだけが、少年達にとって何よりも幸せであった。
「一緒に行こう?」
欲しかった言葉に、いつもは泣かない漆黒髪の少年の喉がひくつく。
とも行きたいと、2人同時にうなずけば、白銀髪の青年が灰銀の瞳を潤ませながら微笑み、少年達の冷たい頬にくちづけを落とした。
全てを忘れさせるような、優しくて、甘い口付けに、声を殺して少年達は泣いた。
さぁ、優しくない世界を歩もうか。
生が続くまで、どこまでも。
End....
■□ コメント ■□
ちょっとしたマフィアパロです。
組織のお荷物な、神田君・ラビと、エリート(予定)なアレン君のお話。
お題のぶんだけ、ちょっぴり続きます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!
10.12.13 冰魔 悟
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