夜の帳が降りてから数刻たった頃。

秘め事が、始まる。


□■ くちびるを合図に □■


ひんやりとした空気が漂う深夜。
昼間の賑わいが嘘のように静かな廊下に、コツコツと靴音が響く。
靴音を響かせている少年は、一定のリズムで足を動かし進んで行く。
そのリズムに習うように少し濡れたままの髪が動き、顔にへばりついた。少し鬱陶しげに顔についた髪を払うと、自身の真っ白な髪を首にかけていたタオルで無造作に拭く。
しかし足は止まることはない。
自身の部屋の前を平然と通り越し、目指すは1つの部屋。
漆黒の青年の、居る場所。
目的のドアの前までくるとその足を止めた。
冷たいドアのぶを白い手で握った時、ギィと古びた音を立てて扉が開かれた。
思いがけない事態に少年はドアのぶを持ったまま前につんのめると、中から伸びてきた腕に手に腕をつかまれ中に引きずり込まれた。

「わっ・・・」

驚きの声を上げたと同時に、全身が温かさに包まれた。少年は自身を抱きしめている漆黒の髪の青年の大きな背に腕をまわす。
後ろでドアの閉まる音が聞こえたと同時に、上からため息が落ちてきた。

「遅せぇ・・・」
「しょうがないじゃないですか・・・任務の後はお風呂に入るんです。知っているでしょう?ーって、うわっ神田!」

神田と呼ばれた漆黒の髪の青年は、そんなの知るかと言わんばかりな強引な動きで、少年を抱き上げて部屋に備え付けてあるベッドに向かう。
「落とさないで下さいね」と小さく願う少年の願いを聞き届けたのか、神田は華奢な少年の体をベッドの上にそっと降ろした。
その一連の動作で少年からふわりと石鹸の香りが漂い、少しはだけた服から除く首元に誘われるように顔を近づけた。

「あっ!」

少年が首元にピリッとした感触を得たと同時に、神田が首元から離れる。
少年は痛みに似た甘い感触を受けた場所に確認するように白い指を這わせて、少し満足げに笑んだ。
その反応に神田は驚いたように目を見張る。
そんな神田の反応に対して、少年は笑う。

「そんな顔しなくたって」
「・・・・・・怒るかと思ったんだよ」

正直に述べれば、少年がくすくすと笑う。

「僕ね、この 『 証 』 好きなんです」

白い肌に栄える証しを愛しそうに撫でれば、神田の喉が思わず鳴る。
誘うような少年の指の動きに、誘われるように神田の体が動く。
少年の白い手に己の手を重ね顔を近づければ、少年はゆっくりと瞳を閉じた。 そっと重なる唇。ぺろりと柔らかい上唇を舐めれば、誘い入れるように口が少し開く。その隙間に舌を滑り込ませれば、まるで当たり前のように少年の舌が絡みついた。
貪るように深い口付けを続けていると、先に根を上げたのは少年の方だった。
軽く胸を叩かれた唇を開放すれば少年の呼吸は荒く、頬は酸欠と与えられた微量の快楽によって淡い紅に染まっている。
隠された瞳開くようにと、まぶたにキスを落とす。
ゆっくりと現れた瞳は程よく潤み、瞬きをすると同時に透明の雫が頬を伝った。
その様子に神田はにやりと、意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「てめぇが誘うなんて珍しい」

言いながら少年の肩を押せばいとも簡単にベッドに倒れた。
それを合図として神田が覆い被さると、脇の下から腕を回され引き寄せられる。
そのまま少年の好きなようにさせていたら、鎖骨のあたりに甘い感触を受けた。視線を首元に落とせば、鎖骨に吸い付く少年の姿。
ちゅっと音を立てて離れた場所には、先ほど少年に付けた証しと同じような位置に、証しが出来ていた。
満足げにその証しを見つめる少年に、息を呑み体にこもる熱が増したのを感じた。

「ーっ!煽った事、後悔するなよ」

少しはだけた少年のシャツをいつもより乱暴な手つきで脱がせば、真っ白な上半身が目の前にさらされた。
滑らかな少年の肌に思わず指を這わせると、少年の手が神田の指を捉えた。
抵抗するのかと思い顔を上げれば、交わる視線。
神田が口を開く前に、少年が口を開く。

「僕だって君が欲しいんです、神田」

ストレートな言葉に、神田は一瞬動きを止めた。
見つめてくる少年の灰銀の瞳は欲に濡れている。
焦らなくても逃げないと、伝えてくる。
神田は少年との久しぶりの再開に、己が思いの他先走っていた事を自覚した。

「アレン」

滅多に呼ばない、否人前では呼ばない少年の名を呼べば、少年ーアレンは一瞬驚いたように瞳を開き、次いで太陽のような微笑を浮かべた。
そして欲に走りすぎた為に忘れた言葉を、唇に乗せる。
言い馴れない約束の言葉を、アレンに。

「・・・ちっ。・・・・・おかえり」
「ただいま。大好きです、神田」

「舌打ちさえなければなぁ」とぼやくアレンにゆっくりと唇を合わせて、夜の秘め事の始まりの合図はおとされた。

誰にも邪魔されない長くも短い愛しい時間を、夜明けが許すまで。

ふたりで。


END.....



□■ コメント □■

しっとりとした神アレが書きたかったんです。
共に居る時間を望んでいるのはひとりだけじゃない。互いに同じ気持ちを抱えてるんです。

喧嘩しつつ恋人な2人も萌えますが、こんな形での相思相愛な2人!萌えますね!


08.08.03 冰魔 悟