■□ 約束 ■□



ぽかぽかと、日差しが優しい日。
私とアレン君は散歩という名のデートを楽しんでいた。
普通の恋人のように手を繋ぎ肩を寄せて歩く。
教団内部では出来ない事をアレン君はこの際、と言わんばかりに実現してくれる。
その優しさに素直に甘えれば、アレン君は嬉しそうに笑うのだ。

「ねえ、アレン君」
「なんですか、リナリー?」

顔をこちらに向けたアレン君の真っ白な髪を木漏れ日が白銀に染める。
それは彼の聖母のような微笑みと合間見合って、彼を一層奇麗に見せた。
見惚れる様な光景を不意に見ると、このまま彼が光と同化してしまいそうだと、錯覚しそうになる。

「・・・・・・」

私が無言のまま立ち止まると、アレン君も足を止めて顔を覗き込んできた。

「?リナリー?」

問いかけに答えずに、私はアレン君の頬に指を這わせた。
アレン君は少し首をかしげたまま、されるがままになっている。
それをいい事に指がアレン君の頬を滑り、赤い痣へとたどりつく。

「・・・・・」

私の錯覚を打ち消すのは、このペンタクル。
白い頬に映える赤いペンタクルのお陰で今此処にいると示しているように見えて、しかしそれを裏返して見ればあのペンタクルが無くなった時眼の前から消えてしまうのではないかと、最近感じるようになってきた。
アレン君の存在意義の根底となっている、赤いペンタクル。
それを見るたびに不安になり、願う。
お願いだから消えないで。
アレン君を連れて行かないで。

「リナリー」

不意に呼ばれ、飛んでいた意識が戻ってくる。
じっと見つめる灰銀の瞳が私の視線が戻って来た事を確認すると、優しく揺らいだ。
安心させるように。

「大丈夫ですよ。僕は居なくなりません」

自身の不安を言い当てられ、一瞬目を見張る。
優しい言葉が私の不安の心を打ち消した。
アレン君が驚いたままの私を見て、くすくすと笑う。
そして大丈夫だと、言うように優しく抱きしめられた。
胸に押し当てられた耳が力強い心音を拾い、アレン君が生きているのだと安心する。
そっと背中に腕をまわして強く抱きつくと、優しく抱き返された。
不意にアレン君が肩を縮めて、私の耳元に唇を寄せた。
すると吐息が耳にかかり、思わず頬を染める。
そんな私の反応に満足したように笑むとアレン君は口を開いた。

「例え居なくなったとしても、必ずリナリーの隣に帰ってきますから。隣、誰かにあげちゃ嫌ですよ?」

少し笑いを含んだまま落とされた言葉はとても優しくて。
私たちが生きている今では「絶対破られない」とは言い切れない、約束。
そうだとしても、その優しさに涙が零れた。



この約束は後々本当に果たされる事となる。
彼の泣きそうな言葉と共に。




End...........

08.08.10 冰魔 悟