君の世界が、僕等と共にあるというならば。

生きぬいて見せよう。

この聖戦が終わるまで。

君が新たな世界へと旅立つその日まで。




■ 君が望むセカイ ■




 ドクンと、心臓が軋んで思わず立ち止まる。思わず左腕を心臓の位置に添えれば、体全身に響くように軋む心臓の音が指にまで伝わってくるような錯覚に陥った。
 己の世界が軋むような、そんな軋み。痛いわけではない。ただ鼓動が速くなるだけなのだが、それがかえって恐ろしく感じた。

「軋むな、止まらないで…」

 白髪の少年は呟き、服を握りしめた。
 静まれ、と己の心臓に念じながら視界を閉ざせば、脳裏に浮かぶのは漆黒の髪を持った可憐な少女。少女は記憶の中で、にこりと笑った。誰もが癒される、そんな微笑み。その微笑みに何度救われたことか。そして何度少女に想いを寄せたことか。その思いが叶わないと知りながら。
 少女の世界は確かに、少年等教団の人間と共にあった。しかし少女の世界の中心に居るのは、黒の教団の内部から団員の事を心から想い支えてくれる優しい大人。真っ白なベレー帽のような帽子をかぶる、少女の実の兄。この兄弟の絆には誰も介入は出来ない、してはならないのだから。兄は少女のために教団に入り、少女は兄の為に生きる。再び共に新しい時代を歩むために。

「新しい…世界か…」

 その世界で生きる事ができるのだろうか。
 心臓が軋む度にそう思う。そして教団のどれだけの人がその日にたどり着くことができるのか。
 漆黒の髪を高い位置で結いあげた青年は?燃えるような橙の髪を持った青年は?
 全員で笑える日が来ることが、彼女の夢、望み。1人が欠けても、少女は涙を流す。
 だから生きなければならない、少女が泣かないためにも。新しい未来が明日に迫るまでその日まで。

「心臓よ…イノセンスよ…僕を生かせて」

 願うように、祈るように、望む。
 全ては少女の為に。少女のあの限りなく狭い世界の定義が、未来で変化をし、幸せな未来を歩めるように。
 歩み出したら、もう世界から消えてもいい。
 もう先は長くはないと、体が伝えている。長年の悪魔-マナ-の呪、蝕むノア、そして心臓のイノセンス。侵され続けた体は、僕という存在を残さないだろう。
 だから消えるのなら教団の中じゃなく、彼女の前でもない場所で消えてゆきたい。
 全て呑まれた人生の最後だけでも、死にざまくらい己で決めるのだ。

「最後見るのはー、蒼穹の空と真っ白に輝く太陽の下がいいな」

 まるで少女のような、眩しく輝く太陽の下で―。


End......



08.09.26 冰魔 悟