■□ 足りない時間と、愛しいお前 ■□ ぽかぽかと暖かな日差しが降り注ぐ午後。 まるで春のような陽気に誘われて、外に出れば輝く太陽が俺を照らした。 眩しさに屈するように、木の木陰に腰を下ろす。そして持っていた本を開き、趣味に没頭し始めた。 一定間隔で印刷されている文字を目で追いながらも、頭のどこかで全く違う事を考えていた。 それは、いつも俺の隣に居る、真っ白な少年の事。優しすぎるエクソシストは、今日は教団には不在。漆黒の髪の少女との短期任務についている。 いつも隣にいる存在が居ないとこんなにも暇だと、つまらなく感じる事を最近知った。 と言っても、真っ白な少年と一緒に居る時でもする事は変わらないのだが。1人での読書がつまらなく感じるのはなぜだろう。 どこかぽっかりと穴があいてしまったようにも感じる。 自問自答しても、答えは出てこなかった。 「あー内容が頭に入んないさ」 緋色の髪をがしがしとかく。そして持っていた本を読むのを断念した。 ぼうっと、木漏れ日を見つめていると、段々と瞼が重くなってくる。特にする事もないので、その優しい眠りへの誘いに逆らう事をしなければ、徐々に意識は落ちて行く。 ーアレンとこんな風に昼寝したいなぁ 眠りに堕ちる瞬間。思うのはやはり真っ白な少年の事だった。 「おぃ!糞兎!!」 突如耳に入ってきた怒号に、俺の意識は強制的に覚醒させられる。 驚いて瞼を上げれば、見慣れた漆黒の青年が仁王立ちしていた。その整った眉間には深い皺。怒っているのは見て取れるのだが、寝ぼけ頭には何故漆黒の髪の青年ーユウが起こっているのか、解らなかった。 ぼけっと、整った顔を眺めていると、ユウが珍しく大きなため息を吐いた。 そのため息の理由もやはり心当たりがなく、ユウが俺呼んだ理由として可能性の高いものから問う事にする。 「ユ、ユウ…?なんさ?もしかして任務で探してたとかー?」 「ちげぇよ」 見事に一刀両断される。 それ以外にユウが俺を呼ぶ理由が見当たらなかった。 ユウは再び大きくため息を吐くと、薄い唇を開いた。 「てめぇら、このまま風邪ひきてぇのか?」 そう言えわれた所で、空が茜色に染まってる事に気づく。少し寝るつもりが大分寝入ってしまっていたようだった。 ぼうっとした思考が今の時間の予測を立てた所で、頭が一瞬フリーズする。 ーん?てめぇら? ユウの言葉が複数な事に、働きの鈍った頭が気付く。 「ユウ…?てめぇらって…」 ここはユウに直接聞いた方が早いと、上半身を起こした時、視界の端で白い物体が動くのを捕らえた。ころん、と転がるように地面と接触しかけた白い物体を反射的に支える。次いでその物体が人間であると、気付くと共に、俺は再びフリーズした。 今己の腕の中に居るのは、求めていた真っ白な少年―アレン。 驚いて固まる俺の頭上から、ユウの深い深いため息が降りかかる。 「ようやく気づいたのかよ」 ユウの声がこの腕の中のアレンは幻ではなく、本物だと肯定した。 肯定されたとしても、俺の思考はこの思いもしない事態については行ってくれなかった。いつもは冷静な筈の思考が一度混乱すると上手く収める事が出来ないと知る。 アレンの存在を確認するように、その白い頬に指を這わせれば、暖かな体温が指の皮膚伝わってくる。 「アレン…?」 確認するように呼べば、深い眠りの底に居るアレンが、タイミングよくふにゃりと笑った。 「モヤシが帰ったのはもう2時間以上前だ。早く起こして、コムイんとこ向かわせろ!」 それ以上言う事はないと言わんばかりに、ユウは踵を返した。言葉の中にユウなりの優しさがこもっていて。その背筋が綺麗に伸びた背に、愛しさすら感じた。 「ユウ!さんきゅーな!」 大声で礼を述べたが、ユウが振り返る事はなかった。 ユウの姿が見えなくなってから、俺は腕の中のアレンを思いっきり抱き締めた。そのぬくもりを感じ取るように。心にぽっかりと空いた穴をふさぐように。 抱きしめる力が強過ぎたのか、アレンが身じろぎをした。 そして少しの間の後、灰銀が姿を現す。灰銀は真っ直ぐ俺を見つめている。俺もその視線を外すことなく、見つめ返した。 「ラビ…」 優しくて、とても愛おしい声が己の偽名を呼ぶ。 途端心が温かくなり、微笑みが漏れる。つられるような形でアレンも微笑んだ。 「お帰り、アレン」 軽いキスを唇に落とせ、アレンは一瞬きょとんとしたが、すぐさま頬を赤く染めて至極嬉しそうに微笑んだ。 「ただいま、ラビ!」 勢いよくアレンが抱きついてくる。背中にまわされる腕が、全てが愛おしい。 顔が幸せで緩むのを感じながら、アレンを強く、強く抱き締めた。 「寂しかった…ラビ…もっと抱きしめて…」 アレンの言葉に一瞬心が閉めるけられると同時に愛おしさが込み上げてくる。さらに強く抱き締めれば、アレンが「ありがとう」と呟いた。 「アレン……俺も寂しかったさ…」 そう口に出してから、俺も寂しかったのだと気付いた。 1人での読書も、アレンが隣に居なかったから、安心できる場所がなかったから、つまらなく感じたのだ。 答えと共に、俺がどれだけアレンの事が好きなのか自覚した。 「大好き…」 「俺もさ、アレン…愛してる」 寂しさを、愛しさを分かち合うように深く、深く口付けた。 チュッと音を立てて唇を離せば、銀の糸が二人の間をつないだ。 「えへへ」 少し恥ずかしげに微笑むアレンは幸せそうで、俺も幸せを感じて微笑んだ。 アレンと居る時間は、゛ラビ"の中で幸福な時間として、場所を確定してゆく。 今の時が一番の幸福の時間だといえる。 「幸せさ…」 思わず呟けば、アレンが綺麗に微笑んだ。 抱き合う腕に力がこもるのを感じながら、この幸せを噛みしめた。 End...... ■□ あとがき ■□ なんとなくで、出来あがったブツ。 甘々書きたかったんですよ! 甘々って程じゃないような気もしますがね! 08.11.06 冰魔 悟 |