■ 描いた夢 ■


夢を見た。
壁一面真っ白な部屋。
狭い室内の真中には茶色いテーブルと、向かい合いように置いてあるイスが2脚。
壁には小さな食器棚があって、そこにもセットの食器類。
窓からは暖かで優しい陽光が射し込み、優しい風が真っ白なカーテンを揺らしていた。

「    」

背後から優しい声音が名を呼んだ。

「    」

彼の名を呼びながら振り返ったところで、ふっと意識が浮上する。
夢からの目覚めをぼんやりと感じながら、ゆっくりとまぶたを上げれば、視界の端に橙を捕らえる。
橙がラビの髪だと気づくのには時間は掛からなかったが、彼が少し心配そうに顔を覗き込んでいる事に気づくのは少し遅れた。

「大丈夫さ?アレン?」

大きな手が頬に触れる。
その暖かさを感じながら瞬きをした時、目尻から雫が零れおちた。

「・・・・・・アレン?」

再度発せられた心配そうな声音にアレンは軽く笑む。

「大丈夫、です」
「そうは見えないさ」

そんな笑みと言葉で納得させられるラビではない。
頬に添えられていた手が頭に移動し、真っ白な髪を優しく撫でられる。優しく理由を言うように足す。
時よりラビの優しさに助けられる事がある。
その優しさに依存はしてはならないとはわかっていても。時折口を開いて、静かに聞いてくれる彼に言葉を打ち明ける。

「ラビ。僕、夢を見たんです」

涙が出るくらい優しい、夢を。
誰が名を呼んでとか、そういう情緒は一切言わない。
ただ、見た事だけを、ひと言ふた言。
何時もどおり彼は静かに聞いてくれる。
何事にも傍観者である筈のー否。傍観者でなければならない彼が話を聞いてくれて、少しの言葉をくれるのは、ブックマンとしての彼らの理念と反する筈。
なぜ介入するような行動をとっているのかなどは、アレンが考える事ではない。
彼は優しい、それだけでいいのだ。

「ありがとう、ラビ」

静かに礼を言えば、ラビは少し困ったような笑みを浮かべた。

「夢が夢じゃなくなるといいさね」

己では言えない『優しい切望』に、雫が頬を伝う。

想いはその雫と共に静かに現状という海の中に沈んでいった。


END......


■□ コメント ■□

過去の拍手。


08.08.03 執筆者:冰魔 悟