小さな、小さな存在。
 でも俺たちにとっては、とても大切な愛しい子。



■□ 可愛い、可愛い、愛しい子 ■□



 カチャリ、という金属音が耳に届き、薄く意識が浮上する。まどろむ意識の中、もう一度眠りにつこうとした瞬間。

「ラビ兄ぃちゃん起きて―!!」

 目覚まし時計よりも大きな声が耳の中に飛び込んできた。
 その声は寝ぼけた意識を起こすのに十分であった。
 重たい瞼を無理やり上げれば視界の端に愛しい白が映る。その存在を頭が認識すると同時に、ラビの意識は完全に起床するのであった。

「おはようさ、アレン」

 挨拶をしながらゆっくりと起き上がったラビは、少し高めのベッドの端からずり落ちないよう必死にしがみつく愛しい子供を、ひょいと抱きあげるとベッドの上に乗せてあげれば、愛しい子供ーアレンはにっこりと笑った。その笑みに一瞬クラリと来たのは仕方がないと言えよう。
 朝日に輝く白い髪、大きな灰銀の瞳を縁取る同色の睫毛、小さな鼻、ふんわりと柔らかそうな唇。全てのパーツが愛らしいアレンは、ラビとこのマリアン家の末っ子の男の子であった。
 真っ白な頭をなでてやると幸せそうに眼を細める仕草は悩殺モノだ。
 ニヤケそうになる頬をどうにかして押し殺すと、ラビは大きく背伸びをした。その仕草をした後、ラビが布団から出て支度を始めるのを知っているアレンは、身軽い仕草でベッドから飛び降りた。そしてドアを開けたまま待っているのだ。
 そしてゆっくりと近づいてきたラビの手を、小さな手がせかすように引かれるのである。
 これが、ラビの朝の1コマである。

 「あ、ラビ、起きたのね。おはよう」

 リビングに続くドアを小さなアレンの代わりに押しあけると、響いた鈴の音を転がしたような声。キッチンから顔を出したのは2つ下の妹のリナリーであった。
 
「おう、おはよう。相変わらず早いさね、リナリーは」

 リビングに備え付けてある時計は6時30分をしめしていた。となるとこの器量よしの妹は何時に起きたのだろうか。リビングに香るコーヒーの良い匂いに食欲をそそられながら、リビングでいそいそと動くリナリーの漆黒のツインテールを見つめた。そして気付く。いつもはラビよりも先に起きて、まるで歳をとった大人のようにコーヒーを飲みながら新聞に目を通す兄弟の姿がない事に。
 きょろきょろと室内を見渡しても、その姿を見つける事は出来なかった。この事に気づいたのはラビだけではないようで、アレンもきょろきょろと室内を見渡していた。
 その兄弟がこの場に居ないというのはラビにとっては、アレンを一人いじめできるいいチャンスであると言えるのであるが、そんな都合の良い事は続かないものだとラビは痛いほど知っていた。そんな嫌な予感を振り切るように、アレンを抱きあげてソファーに座った瞬間。
 ガチャリ、と音を立ててリビングのドアが押しあけられた。そして入って来たのは、己と血肉を分けて生まれてきた、双子の弟。ラビの明るい橙の色とは全く違う漆黒の髪を邪魔そうにかき上げ、除いた顔はとても眠そうであった。
 この弟の登場と共に、ラビのアレンと幸せな時間が終わりを告げるのである。
 ラビの上で大人しくしていたアレンがじたばたと暴れ出す。アレンに聞こえない程度に溜息を洩らすと、ラビはアレンのお腹に添えていた腕を退かしてあげれば、暖かな体温が腕の中から逃げて行った。ラビの膝から降りたアレンが向かうのはもちろん、漆黒の髪をもった双子の弟の元。

「ユゥ兄ぃちゃん!おはよぅー!!」

 元気よく弟ーユウに飛びつけば、驚きつつもアレンを抱き上げた。大好きな兄の腕の中に来られたアレンは満面の笑み。嬉しそうにユウに頬ずりしている。ユウは無表情のまま、キッチンにある椅子に座ると、アレンを膝の上に乗せて髪を結い始めた。櫛もないのに綺麗に結いあげられるのは、ユウが慣れているのもあり、彼の髪がそれほど艶やかで癖がないからと言えよう。双子の筈なのに、なぜこんなにも髪質が違うのだろうか、とよく思う。二卵性だからという理由で片付けて欲しくないほど、ユウとラビは似ていなかった。赤の他人、と言って誰も疑わない程に。
 そんなことよりも、1番理不尽なのは。

「なんでユウが1番なんさ…」

 アレンの中での1番がユウである事であった。
 アレンの事を溺愛している、ラビ、リナリーよりも、基本的に仏頂面で、あまり愛情表現を前に出すのが苦手なユウの方が上なのか。始めはユウも毛嫌いをし、アレンも苦手意識全開であった筈なのに。気づいた時にはもう、ユウにべったりであった。
 思考回路が単純なアレンに聞いても、その問自体が理解できなくて、首をかしげるばかりなので、そればかりはもう少し育つのを待つしかない。と言いつつも、なんとなく理不尽さを感じざるをえないのである。
 
「さぁ、朝御飯にしましょ!」

 コトリ、と朝食の用意が済んだと同時にリナリーの声がかかる。
 途端、アレンが神田の膝の上から飛び降り、自分の特等席に座るのを見て、思わず笑った。アレンにとっては、ユウよりも食事の方が上のようだ。
 子供椅子という名の特等席に座り、両手にフォークとナイフを持ったアレンをちらり、と新聞の端から見たユウの横に座れば、小さな舌打ちが聞こえた。
 何も動じない顔をしながらも、アレンの事が可愛いのであろうユウを笑えば、容赦なく足を踏みつけられた。思わず突っ伏せども、食事に夢中のアレンが気付くはずもなく。リナリーの笑いを押し殺す声が耳に届くだけであった。

「ユウちゃん、それはひどいさぁ」

 この言葉を皮切りに双子の鬼ごっこが始まるのは、いつもの事。
 ドタバタと暴れまわる、ラビとユウ。それを見ながら呆れつつも笑むのはリナリー。いつの間にか食べ終ったアレンが、にこにこと笑うのはこの家族が幸せな証拠。

 そうしてマリアン家の1日が始まるのであった。



END........


■□ コメント □■

 本当は、アンケートで頂いたフリリクの為に書き下ろしたんですが・・・その、クロスと掛けあわせたほうが良いかと思いまして、単独up。
 ついでに言えば、本当に書きたかったのはこの話ではなかったりします。
 いきなり家族パロ出しても分かりにくいかなーと思いまして、前置き的なお話にしてみました。
 明日ぐらいに他の話をupな予定★
 家族パロはこれからもちょくちょく増えて行く予定ですーv
 設定的にはラビ、神田が双子で18歳。リナリーが16歳。アレンが6歳。
 捕捉で言ってしまえば、父がクロスで、母がアニタです(笑)



09.02.08 冰魔 悟