マリアン家の末っ子アレンは、双子の弟であるユウにべったりなのは周知の事実。だからと言って双子の兄のラビや姉のリナリーが嫌い、というわけではない。
 だからこそ、兄妹は愛するアレンの興味を引こうと、日々頑張るのであった。



■□ 好きと嫌いの境界線 □■



 マリアン家の長男ラビはいつも以上に軽い足取りで帰り道を歩いていた。今にも鼻歌を歌いだしそうなほど機嫌がいい。
 理由はラビが脇に抱えているあるモノにあった。
 ぴんと伸びた三角耳、くりっとした丸い瞳、長い尻尾を持った愛玩動物、猫のぬいぐるみ。ちなみに色は三毛。
 ゲームセンターにあるユーフォーキャッチャーの戦利品である。元々ゲーム類の大好きなラビは、ユーフォーキャッチャーなどお手の物であった。
 アレンがユウに懐き始めてからは友人とゲームセンターへ行く回数も減り、アレンをあやす日々が続いていたのだが、久々に友人と寄ってみたゲームセンターにてこの猫と出会った。この猫を見た瞬間、想い浮かんだのはアレンの愛らしい笑顔。アレンは確か猫が大好きであった情報を瞬時に脳が引き出した時には既に、ゲーム機にお金を入れていたのであった。挑戦する事4回。見事猫を手に入れたラビはご満悦であった。共に居た友人のタグが、苦笑するほどに嬉しそうにしていたらしい。
 それを思い出し少し気恥ずかしくなったが、ラビはそれを振り払うと、自宅への階段を駆け上がった。
 アレンの笑顔までもう少し。
 それだけを思いながら、ドアノブを引き開けたのであった。

「ラビ兄ぃちゃん!おかえりなさい!」

 土間で靴を脱いでいると、元気な声と共に、背中に重みと小さな暖かさを感じた。愛する弟、アレンを背中に乗っけたまま勢いよく立ちあがると、アレンは首にしがみついてきた。そのままおんぶの要領で支えてあげれば、アレンはニコニコと嬉しそうに笑った。その笑顔に学業の疲れも吹っ飛ぶのであった。
 そのままリビングに行き、アレンをソファーに座らせると、ラビは満面の笑みで戦利品をアレンの前に差し出した。

「アレン!ほーらお人形取ってきたさぁー」
 語尾にハートマークが見えそうなほどラビは嬉々としていた。思い浮かぶのはやはりアレンの笑顔で。その瞬間を待った。
 が、数秒たってもいつものような嬉しそうな声が聞こえる事はなくて、不思議に思いアレンを見て驚いた。
 いつもの愛らしい表情はどこへやら、何か不満げに眉をひそめていた。いつの間にそんな表情ができるようになったのか、とかユウを見ていたのか、とか余分な考えだけが頭を支配する。とにかく、予想とはあるかに違うアレンの反応に、ラビは柄にもなく混乱していた。
 困ったのが顔に出てしまった瞬間、アレンの柔らかそうな頬かぷくっと膨れた。

「あれん、女の子じゃないもん…男の子だもん…」

 いじけたようにフローリングに届かない足をぷらぷらと動かした。
 その表情に、仕草に、反応に、ラビは大きなショックを受け、フローリングに項垂れた。
 まさか拒否される日が来るなんて思いもしなかったのだ。
 6歳にもなると人形は卒業なのだろうか、と悲しみに暮れていた時。

「アレンくーん!ただいま!!」

 落ち込むラビとは正反対の嬉々とした声音で、リビングに飛び込んで来たのは、妹のリナリーであった。
 そのテンションはまるで先程のラビのようで。
 思わず視線を向けた先に己と同じ末路を辿るものであろう戦利品を見た。
 そんなラビの視線に気づくことなく、リナリーは手に持っていた者を差し出して、にっこりと笑った。

「アレン君!寂しくないように、ほら!お人形!可愛いでしょう?」

 それはラビが取ってきた戦利品の色違いの猫で。真っ白な猫とリナリーを見たアレンの灰銀の瞳が一瞬にして潤んだ。

「リナ姉ぇまで…ふえ…」

 本格的にいじけ始めたアレンにリナリーは、驚いて声を上げた。
 リナリーもラビと同じように喜んでくれると思いこんでいたのだろう。
 どういう事なのか理解できずに呆然と立ち尽くすリナリーを見かねたラビがゆっくりと立ち上がり、己の持っていた人形を持ちあげた。
 ラビの持つ茶色の猫を視界に収めた、リナリーが一瞬目を見張る。

「ラビ、もとって来たのね…色違い…三毛猫かぁ」
「そうなんさ。で、こうなったんだよな…白猫も可愛いのに…」

 茶色の猫と真っ白な猫を寂しげに抱えて、2人同時に小さくため息を吐くのであった。
 猫をどうしようか、相談していると、玄関のドアがしまる音が小さく響き、少しの間の後に制服姿のままのユウがリビングに入ってきた。

「帰った―…ってお前等…」

 ドアを開けたまま止まったユウを不思議に思った2人は、視線を向けて思わず声を上げた。
 ユウの脇に抱えられているのは見慣れた猫で。ラビ達がとってきた戦利品の最後の種類、黒い猫であった。
 落ち込む2人を見た瞬間察したのであろうユウはなんとも言えないような顔をしていた。
 そして3人同時に思うのは、アレンに関しては考える事はみな同じ、という事であった。
 
「考える事はみんな同じなのね…しかたない、全種類あるわけだし、リビングにでも―」
「あ?」

 ため息交じりに発せられたリナリーの言葉がユウの変な声で止められる。珍しいユウの変な声に、視線を向ければ奇妙な光景が飛び込んできた。
 黒ネコ抱えるユウの腕に、アレンがぶら下がっていたのだ。さっきまでふてくされ、潤んでいた大きな瞳をじっとユウに向けている。その表情に、先ほどの色はない。

「これ、あれんの?」
「あ?ああ」

 大きな瞳に捕らえられたユウが思わずたじろぎ、なんとなく答え辛そうに声を発した。
 三人に同じ事をされたアレンは泣くのではないだろうか、と心配した瞬間。
 アレンの表情がぱぁ、と明るくなった。そしてにっこりと笑う。

「ありがとう」

 思いがけないアレンの反応に三人同時に固まった。
 そんな三人に気づかないアレンは力の抜けたユウの腕から黒い猫を抜き取ると、嬉しそうにぎゅぅと抱き締めた。
 嬉々としながら黒い猫に擦り寄るアレンに、混乱する三人。
 思うは「何故?」だけである。
 この三種類の猫は特に違いはないはず。あるとすれば、黒い猫だけが目つきが悪い、という事だけであろうか。
 なぞは深まるばかり。

「おい、アレン。こっちとどう違うんだ?」

 ラビ達の猫を指さし、思わず問えば、きょとんとした瞳が帰ってきた。ついでこてん、と愛らしく首をかしげるものだがら、思わずそこで問うのを断念した。どうせ聞いてもよくわからない答えが返ってくるだけなのが目に見えていたのだから。
 後々帰宅する両親に訳を解読してもらおうと、三人同時に思った瞬間、アレンがにっこりと笑った。

「あのね、お名前つけていい?」

 思いがけないアレンの言葉に、再び固まる三人。
 少しの間の後に「ああ」と了承を出せば、アレンはえへへーと口に出しながら幸せそうに笑った。

「なんて言う名前にするんさ?」

 名前がなんとなく気になったラビが問えば、間髪入れずに答えが返ってきた。

「ゆーちゃん」

 その答えに、黒い猫だけが選ばれた理由を知る。
 目つきの悪さといい、真っ黒な容姿と言い、ユウを連想できる黒い猫に一同が、少しの嫉妬と共に納得したのは言うまでもない。


 後日、なんとなく気になったユウが、オレンジ色の猫と真っ黒な笑顔の猫を持ってきた所、その猫たちも無事にアレンのお気に入りとなったのはまた別のお話。



End..............


■□ コメント □■

 昨日更新した家族パロの続編。
 といいますか、これが書きたかったんです!!
 昨日本当はこれを書こうとして、バックの黒猫を作っていたんですよね。
 こんな感じの猫のぬいぐるみ欲しいなぁ、とか思いながら。
 仔アレン万歳★


09.02.09 冰魔 悟