己よりもいくぶんか細身の体をベッドに押し付け、神田は覆いかぶさった。
組み敷かれた少年は、少し不満げな表情で神田を見上げている。その灰銀の瞳に浮かぶのが「拒絶」ではないことに気づいた神田の唇が、弧を描く。
「期待してんのか?」
なにを、と言わずに遠まわしに問えば、少年ーアレンは小さくため息を吐いた。ついで灰銀の瞳を少しだけ細めたと思えば、神の宿る左手が神田の頬をなでる。
その行為に意味を見出せない神田であったが、好きにさせているとアレンが少しだけ眉を下げて瞳を閉じる。まぶたの奥に消える灰銀の瞳が悲しげに見えたのは気のせいではない。頬から離れそうになった、赤黒い手のひらを思わずつかめば、アレンが息を呑んだ。
「もう、嫌がらないんですね…」
言葉と共に目尻から流れた一筋の雫に、神田は瞳を細めた。アレンの言いたいことが分からないほど、鈍感ではなかった。
神田はアレンの白髪に手を伸ばし、押し倒した時に乱れた髪をすいた。決して柔らかくはない髪ではあったが、指どおりは心地よい。
そんな神田の行動に驚いたのか、再び現れた灰銀の瞳に少しだけ安心する。
柔らかそうな唇が言葉をつむぐ前に、神田の指がアレンの前髪をかきあげた。現れたペンタクルにそっとくちづけを落とせば、アレンが身震いしたのを感じた。そして少し身を引けば、アレンの複雑そうな表情が視界に入った。
「あの時はあんな事とを言ったくせに…。君はーっ」
言葉をさえぎるように、神田は柔らかなくちびるをふさいだ。
過去に言い放った言葉を忘れてはいない。あの当時は本気で全てが気に食わなかったことは確かだったのだ。
「自己犠牲」の生き様は、未だに好きではない。
だが、いつからその感情が、「共に在りたい」と、変化したのだろうか。
はじめて喧嘩をした日、はじめて任務に出た日。はじめて涙を見た日。その中に些細な切欠はあったのかもしれないが、確定的な日は思い浮かばなかった。
だが、今の神田にとっては、アレンが己の腕の中から逃げない。その現状だけが満足であった。
己には探したい人が、いる。そのことをアレンは知っている。
なのに、アレンを囲い込むのは卑怯だということも理解している。だが、神田はこの衝動を抑えるすべを知らなかった。だからそこ、廊下を歩いていたアレンを部屋に引きずり込み、ベッドに押し倒したのだ。
軽いリップ音を立てながら、柔らかな唇を開放すれば、アレンが小さく息を吐いた。
「君は、本当にずるい…」
少しだけ潤んだ灰銀の瞳に、誘われるように顔をを寄せる。
「もう、黙れ…モヤシ」
アレンの戸惑いも、想いも全て奪い尽くすために、神田は白い首筋に顔をうずめた。
かくして夜の帳は降り、一生忘れることの出来ないであろう刻が幕を開けた。
2人が行き着く先がどこなのか、知るものはいない。
End....
■□ コメント ■□
甘々を目指したはずなのに…いつの間にかシリアスに(汗)
どうしても探したい人が居るのに、アレンを愛してしまった神田と、愛しているから拒絶できないアレン君のお話。
関係的には、「?(アルマ)←神田→←←アレン」。神田よりも、アレンの想いの方が強い状態。
続きません。
時期的には…結構前(アバウト/殴)
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!
10.11.23 冰魔 悟
|